研修担当者のブログ

2021.04.29

リーダーシップとマネジメント 未分類

介護施設の新人育成における施設長の役割(2)

1.施設長の仕事

前回に続き、介護現場の人材育成における施設長の役割について考察します。まず、施設長の役割が一般的にはどのように規定されているかを調べてみました。

ジョブメドレー(https://job-medley.com/tips/detail/95/)によると、介護分野の施設長・管理者の役割は「施設全体の責任者として管理(マネジメント)業務をおこなうこと」とされています。

利用者管理 利用者の状態(既往歴や現病歴など)と介護方針(ケアプラン)を理解し、適切なサービスを提供できているか確認する。入居時・退去時には、利用者本人・ご家族との面談をおこなう
職員管理 介護職員の面接や採用、教育、保有資格・能力に応じた人員配置をおこなう。面談やアンケートで現場の状況を把握し、問題が生じた際には、ケアプランや人員配置の見直しを実施する
運営管理 施設の運営方針・サービスレベルを策定し、モニタリングをおこなう。遵守すべき法令等を把握し、行政関係者との適正な関係を保つように努める。外部に向けた広報活動や営業活動も実施する
収支管理 利用者との契約業務、保険請求業務、各種経費の管理などをおこなう。収入となる介護報酬とホテルコスト(家賃や食費、共益費など)を計算し、人件費などの支出をコントロールする
行政管理 介護保険事業について届出の内容に変更があった場合、10日以内に行政機関の介護保険担当窓口に変更届を提出する。その他、介護保険事業者事故報告書、消防計画の作成・提出などをおこなう

上記のまとめを見る限り、やるべき仕事がとても多く、本当に大変な仕事だな…と改めて感じます。

特別養護老人ホームの責任者は「施設長」と呼ばれ、(1)社会福祉主事の要件を満たす者(2)社会福祉事業に2年以上従事した者(3)社会福祉施設長資格認定講習会を受講した者のいずれかの条件を満たす必要があります。また、有料老人ホームやデイサービス、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所などの責任者になるための資格要件はとくにないそうです(ハードルは意外と低い)。

2.「介護事業所の施設長の役割」に関する書籍をインターネットで検索し、いくつか入手して読みました。新しい順に簡単にレビューします。

1)『介護経営イノベーション(森一成・渡邊佑,2019)』

~東京都の高齢者介護施設のひとつ、合掌苑は職員のSkype面談や、施設館内インカム、全館内無線LAN、アメーバ経営などの導入など介護業界でもあまり類を見ない取組みを次々と実施している老舗の社会福祉法人。これらの改革の結果、離職率7%、残業時間は月平均7時間……人が育ち、定着する組織として、奇跡のような実績を次々と残しながら、充実の介護サービスを提供している。これらの取り組みはなぜ可能になったのか、現場をどう巻き込んでいるのかを明らかにする(AMAZONのレビューより)。~

特に新人育成について書かれている部分はありませんが、理事長の森さんがコーチングの手法を使って部下と面談する話は印象的です。個々の従業員の発想やチームワークをベースにすることで企業が成長させる「ボトムアップ」を推進するために面談をしているそうです。

森理事長は質の高い顧客サービスで是快適に有名な「リッツ・カールトンホテル」の人材育成にならい、1ヶ月、3ヶ月、1年目の面談をはじめます。現在も、1ヶ月で70回(55人)と面談していると書かれています。

面談の内容は、①前回の面談でやると決めたことはどこまでできたか ②その中で課題にしていることは何か③次の面談までに何をするか、の大きく3つだそうです。

組織において職員間のコミュニケーションは非常に重要だが、「結局は目標に向けたコミュニケーションでないと意味がない」との言葉が印象的でした。そうか!あいさつ運動だけではだめなんだ!と改めて自分のレベルの低さに気づかされました(汗)。

2)『やさしくわかる!すぐに使える!「介護施設長&リーダー」の教科書(糠谷和弘,2018)』

~タイトルに“介護”という言葉が入っているにもかかわらず、介護の方法などはどこにも書いていません。ましてや、感動ストーリーなど1つも出てきません。エモーショナルな内容、表現をできるだけ避け、明日から実践できる具体的な方法を伝えることに専念しました(AMAZONの紹介文より)~。

施設長がやるべきことは何か、とても分かりやすく具体的に書いてある本です。理論ではなく行動が書いてあります。本当にすぐ出来そうな事が書いてあります。

主な内容は引き算経営の大切さ、簡単教育ツールの提案、職人的指導法への批判、指導内容の整理(基礎的サービスと応用的サービス)基礎的サービスは標準化できる、良いマニュアルの作り方、情報共有の徹底などなど。

読みやすくとても良い本ですがリスクマネジメントについて書いてあるともっと良かった!

3)『革命的福祉経営戦略(栗原徹,2012)』

~多くの社会福祉法人が崩壊寸前の状況にあり、関係者は「実践的な経営戦略」に取り組まねば生き残ることができないと言われている今、「福祉」に必要なのは“経営戦略”であると説く、本邦初の実践的テキスト。実業の世界から認知症地域ケア事業を行う社会福祉法人を設立し、理事長に就任すると同時に福祉系大学で講師も務める著者が、これからの時代を生き残るための経営戦略を伝授する(AMAZONのレビューより)~

社会福法人の経営について書かれた本で、どちらかというと施設長よりもう少し上の立場の人向けかなと思いました。用語も語り口もやや難しい印象です。人材育成に割かれたページは多くはないですが、結構大事なことが書いてありました。

介護人材の流動性は激しく、厳しい現状の中で極めて重要なことは「介護スタッフをまとめる管理職の人間性」「過去の経験」「管理職としての能力」等の資質である。

介護スタッフの離職率は、管理職の資質が大きく関係していると考えられる。小規模な社会福祉法人においては、法人内で管理職を育成している時間はなく、外部からのスカウト人材かその法人に長く勤務居た人材から管理職に登用する場合が多く、自法人における失敗もこのケースである(ここ大事ですね)。

社会福祉法人のリーダーの役割として①集団の基本的任務、役割、目標を決定する、②価値、行動規範を決定する③仕事の仕方を指示する。④集団並びに個々の部下を動機づける、⑤集団並びに個々の部下が行った仕事を評価する、と書かれていました。

4)『地域でねばる――アザレアンさなだの挑戦(宮島渡,2004)』

~厚生労働省が打ち出した「尊厳」と「地域」を中心に据えた高齢福祉政策のモデルとなり、「逆デイサービス」「一人称ケア」「ケアつきコミュニティー」など目からウロコの提言を続けてきたアザレアンさなだの実践を紹介する(MARCデータベースより)。~ 

人材育成というよりも、法人の歴史と理念の実現に向けた取り組みが記録されている本です。

職員の資質に関して「問題点に気付くには、職員に力がないとますます出来なくなってくる」「社会性や表現力を学びえなかった後遺症と推察されるような感受性の欠如や対人援助に不可欠なコミュニケーション能力の低下が問題を深刻化させていくのではないだろうか」等々、理念実現に向けた人材の確保や育成が段々と困難になっていることが書かれています。

5)『福祉職場のOJTとリーダーシップ(宮崎民雄,2001)』

前回のブログで言及した、全社協の取り組みのベースになっている書籍のひとつのようです。

人材育成や職員研修は、経営の重要な戦略問題であると認識しなければならない。経営主体としては、例えば次のような視点で職員研修の推進を構想していくことが大切である、として

①新しい制度の枠組みの理解、②組織性の開発、③差別化戦略の推進、とまとめられています。

職場研修はOJT、OFF-JT、SDSの三つの体系を上手く組み合わせて実践していくこと、そして階層別にどのような人材育成が大切か、ということが詳しく書かれています。介護保険制度が始まった時期であり、時代を反映した内容になっていると感じました。

3.書籍を読んだ感想

人材育成の重要性はどの本にも書かれています。しかし、それをどのくらい日々の行動として実践しているのかは、施設長によって大きな違いがあるんだろうなと感じました。「介護経営イノベーション」では森理事長が(施設長ではないが)直接職員に面談を行っていました。しかし実際にはここまで職員との面談に重きを置いて実践している施設長(管理監督者)はそう多くはないのではないでしょうか。

私の知っている限り、社会福祉法人の介護事業所の施設長は、長年介護・福祉の現場で仕事をしてきた方が多く、相談援助から、あるいは介護職から、あるいは看護師から、など様々なバックグラウンドを持っている方々です。対人援助の専門化である一方で経営や管理(マネジメント)等の経験はそれほど積んでいない方も多いという印象があります。そのような方々が施設長としてどのように人材のマネジメントを学んでいくのか、そしてどのような信念、技法、知識に基づいて人材育成を行っているのか、興味を感じました(言い換えると介護事業所の介護職員の人材マネジメントにはまだまだ改善の余地があるが、具体的にはどのような項目と優先順位があるのだろうか、という問いがうかびました)。たとえば自分自身介護の経験がない施設長は、現場にどのように関わり、どのようなアドバイスを行っているのでしょうか。

また、今回読んだ書籍について、2000年の介護保険制度や2008年のリーマンショックなど、制度や社会の影響を大きく受けて人材育成のポイントが変わっていくように感じました。介護事業における人材育成のあり方が大きく変わる時期が数年おきにあるんだなと感じました。

2021年現在、介護人材が減り、利用者も減りはじめ、事業の整理や人員の再配置が必要な時期に入ろうとしています。施設長に求められる役割は、これまでになく重要になっていると思いました。

最後に前回ブログに書いた、菅野の「タスク志向」「関係志向」「変化志向」の3つの軸は施設長の人材育成のための行動を読み解き評価するにあたりとても有用であるように感じました。